日産は2016年8月に人気ミニバンのセレナのフルモデルチェンジを行いましたが、そこで大きな話題を呼んだのがミニバンとしては世界で初めて自動運転技術を搭載したことでした。
これは高速道路に限定されますが、前方車と一定の距離を保ちながら自動走行したり、停止や再発進が出来たりするという画期的な技術で、現時点では最も「真の自動運転に近い」自動運転技術を搭載した車種ということになります。
かつて「技術の日産」というキャッチコピーがありましたが、まさに技術の日産の面目躍如を象徴しているのがこの「プロパイロット」だと思います。
日産にはセレナの他にも高級ミニバンのエルグランド、マツダプレマシーのOEM供給となるラフェスタハイウェイスターがありますが、今回はこれら日産のミニバン3車種を比較してみたいと思います。
目次
日産のミニバン全車種の特徴比較
引用:http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1025560.html
それではまず最初に、日産のミニバン各車種の特徴を見てみましょう。
セレナ
引用:http://car.watch.impress.co.jp/docs/news/impression/1025560.html
セレナのルーツをたどると1969年に発売されたダットサン・サニーキャブにまで行きつきますが、直系ということになると1991年にバネットコーチがフルモデルチェンジして登場したバネットセレナになります。
初代バネットセレナはその後のマイナーチェンジで車名をセレナに変更していますが、初代以降今に至るまで手頃な中型サイズのミニバンとして日産の屋台骨を支える主力車種であり続けています。
セレナの特徴は何と言っても「5ナンバーサイズの手頃なボディサイズと広大な室内空間」です。
引用:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/serena.html
セレナは全てのグレードで乗車定員が8名になっています。
前から2人-3人-3人ということですが、正直なところ3列目に3人というのは小さな子供なら可能ですが大人は厳しいです。現実的には2人-3人-2人の7人乗りと考えるべきでしょうが、それにしても十分な乗車定員ですし、7人がゆったりと乗ることが出来るという点が大きいです。
引用:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/serena/function.html
そしてこのパッケージングを5ナンバーサイズで実現させているのがセレナの凄いところです。
セレナはハイウェイスター系のグレードはエアロパーツの関係で全幅が1,740mmとなっていますが、非ハイウェイスター系のグレードは1,695mmと5ナンバーサイズ枠の上限です。
このことは取り回しのしやすさと維持費の安さという2つのメリットを生みます。
取り回しがしやすいということは女性にも運転がしやすく、維持費が安いということは家計にも優しいです。
この2つは家計の主導権を握ることが多い主婦層の支持にもつながりますから、セレナの人気が高いのもうなづけるでしょう。
またプロパイロットのような先進的な技術を採用している一方で、子育て世代にとって使い勝手の良い装備が多数取り入れられているのもセレナの特徴です。
スライドドアの下に足先を入れて引くだけでスライドドアを自動開閉出来る「ハンズフリーオートスライドドア」はたくさんの荷物や子供を抱きかかえている時にはとても便利です。
引用:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/serena/function.html
バックドアの上半分だけが開閉する「ハーフバックドア」は荷物の小さな積み下ろしのために腰をかがめる必要がなくなりますし、自然な高さで簡単に荷物の出し入れが出来るようになるので女性や力の弱い子供やお年寄りには優しい装備です。
引用:https://www3.nissan.co.jp/vehicles/new/serena/function.html
このようにあらゆる側面から「人に優しい」のがセレナの人気の秘訣と言えるでしょう。
エルグランド
引用:http://autoc-one.jp/nissan/elgrand/whichone-2088426/photo/
エルグランドはトヨタのアルファード/ベルファイアと並ぶ日産のプレミアムミニバンです。
初代がデビューしたのは1997年ですが、これは初代アルファードがデビューする2002年よりも5年も前のことです。プレミアムミニバンというカテゴリーは日産がエルグランドで切り拓いたと言っても過言ではありません。
現行型は2010年に登場した3代目となります。
エルグランドの特徴は「走れるミニバン」ということだと思います。それは全高の低さによく表れています。
引用:http://autoc-one.jp/nissan/elgrand/whichone-1825855/photo/0006.html
これはエルグランドを横から見たところですが、全高は1,815mmです。
引用:http://autoc-one.jp/toyota/alphard/report-2319800/photo/0090.html
一方こちらはアルファードを横から見たところです。アルファードの全高は最も低いグレードで1,880mm、最も高いグレードでは1,950mmもあります。
エルグランドやアルファードのような大きなミニバンの場合は全幅も大きいので、全高が高いことが即不安定な走行につながるということはありませんが、低くどっしりと構えたスタイルの方が高速でコーナーを駆け抜けた時などに安定するのは間違いないです。
高速道路を「高速で」走っている時の車線変更時などはミニバンだと車体の揺れが収まるまで少し時間がかかることがありますが、エルグランドはこのような場面でもスパっと車線を変更することが出来、ピタっと安定しています。
その代わり室内高はアルファードの1,400mmに対してエルグランドは1,270~1,285mmなので、室内の広さはアルファードの方が上です。これは2列目、3列目に座っているとその差をよく感じることが出来ると思います。
しかしエルグランドは後席の乗り心地の良さには定評があります。
その秘密は「シートバック中折れ機構」と「マルチリンクサス」にあります。
まずシートバック中折れ機構ですが、これは2列目シートに搭載されています。
引用:http://www.carsensor.net/contents/market/category_1491/_60064.html
この機能のおかげで2列目シートは調整幅が大きく、体圧を上手に分散してくれますので背中が痛くなることがありません。
またエルグランドはリヤサスにマルチリンク式を採用しています。
サスペンションの作りは「トーションビーム」→「ダブルウィッシュボーン」→「マルチリンク」という順番に機構が複雑になり、乗り心地も良くなります。
アルファードは旧型まではトーションビームを採用していましたが、現行型からダブルウィッシュボーンになりました。エルグランドはダブルウィッシュボーンより上位のマルチリンクをリヤサスに採用しています。
マルチリンクはダブルウィッシュボーンよりもきめ細やかな姿勢制御が可能になっており、ハンドリングはもちろん乗り心地や路面追従性などあらゆる面の性能で上回ります。
この2つのおかげでエルグランドの2列目シートはアルファードの2列目シートに比べると乗り心地がかなり良いです。
短距離、短時間の乗車では違いを感じられないかもしれませんが、長距離、長時間の移動を数日間行うとその違いははっきりとわかるはずです。体に残る疲労度が全然違うからです。
そのためエルグランドは「ミニバンでも走りを愉しみたい人」や「大人数乗せるというよりも、2列目シートまでを使って4人程度で長距離を移動する機会が多い人」などに向いていると思います。
エルグランドはアルファードやヴェルファイアに比べると売れていないので質が低いと思ったら大間違いです。
目的によってはアルファードやヴェルファイアよりもエルグランドの方が向いていることも多いです。
ラフェスタハイウェイスター
引用:http://www.webcg.net/articles/-/3931
ラフェスタはリバティの後継車種として2004年にデビューしましたが、現行型は2011年にフルモデルチェンジされた2代目です。
前述のように現行型のラフェスタはマツダからプレマシーのOEM供給を受けたもので、先代のグレードの中からハイウェイスターのみが存続してフルモデルチェンジをされた形となっています。
OEM車とはいえ、外観はプレマシーとかなり異なっています。
引用:http://autoc-one.jp/mazda/premacy/report-565284/photo/0006.html
こちらがプレマシーの外観です。顔つきがかなり違うのがわかると思います。
どちらも発売された2010年から2011年当時の各社のアイデンティティをよく表した顔つきです。
OEM車というとどうしてもネガティブなイメージがつきまとってしまい「どうせ買うなら本家を買った方が良い」ということになりがちですが、これだけ顔つきが違うと「プレマシーはカッコ悪いけどラフェスタハイウェイスターはカッコ良いから買う」という人がいても全くおかしくないと思います。
ちなみにリヤはほとんど変わりません。
引用:http://www.webcg.net/articles/-/3931
引用:http://autoc-one.jp/mazda/premacy/report-565284/photo/0003.html
上がラフェスタハイウェイスター、下がプレマシーです。
プレマシーのリヤ周りは違和感がありませんが、ラフェスタハイウェイスターを見るとマツダっぽいテールランプに日産のエンブレムが非常に不自然な感じがします。
ラフェスタハイウェイスターの特徴としては「ハンドリングの良さ」を挙げることが出来ます。
2000年代以降のマツダ、もっとわかりやすくいうと「Zoom Zoom」を言い出してからのマツダは主力となる欧州市場を強く意識しているせいかどの車もハンドリングが非常に秀逸です。
人によっては硬いと感じることもあるかもしれませんが、硬さの奥にはきちんとしたしなやかさがあり決して乗り心地が悪いというわけではなく、「心地良い硬さ」という表現が適当かもしれません。
そのためラフェスタハイウェイスターを運転していると、思わずミニバンを運転しているということを忘れてしまいます。
全高の低いスタイリッシュなミニバンが好きで、トヨタのエスティマやウィッシュは街中でたくさん見かけるので嫌だ、という人には意外な選択肢としておすすめです。
日産のミニバン全車種の性能比較
引用:http://autoc-one.jp/nissan/elgrand/report-1094455/photo/0002.html
それでは次に日産のミニバン各車種の性能と燃費を比較してみましょう。
セレナ
エンジン種別 | 最高出力 | 燃費 |
2.0L 直列4気筒 ガソリン車 | 150ps/6,000rpm | 15.0km/l |
2.0L 直列4気筒 ハイブリッド車 | 150ps/6,000rpm(エンジン) | 15.0~17.2km/l |
2.6ps(モーター) | ||
システム最高出力は非公表 |
セレナはガソリン仕様も一応用意されてはいますが、ガソリンエンジンが搭載されるのは最廉価グレードのSのみです。
それ以外の全てのグレードはハイブリッド仕様となるわけですが、ご覧いただいておわかりのようにガソリン仕様との燃費差はほとんどありません。
これはセレナのハイブリッドシステムがいわゆる「マイルドハイブリッド」に近いもので、モーターによるアシストが非常に小さいことが原因です。
これをハイブリッド車と呼んでしまっていいのかどうかは議論が分かれるところですが、機構的にハイブリッド車であることには間違いありません。
エルグランド
エンジン種別 | 最高出力 | 燃費 |
2.5L 直列4気筒 ガソリン車 | 170ps/5,600rpm | 9.0~9.4km/l |
3.5L 直列4気筒 ガソリン車 | 280ps/6,400rpm | 10.2~10.8km/l |
エルグランドは2.5Lと3.5Lの二本立てです。
あの重たい車体を引っ張るわけですから、3.5Lの方が余裕のある走りを愉しめるのでおすすめです。
燃費は今時の車にしてはどちらも悪く、燃費を気にしながら乗る人にとってエルグランドはかなり厳しいと思います。
ラフェスタハイウェイスター
エンジン種別 | 最高出力 | 燃費 |
2.0L 直列4気筒 ガソリン車 | 151ps/6,000rpm | 15.2~16.2km/l |
2.0L 直列4気筒 ガソリン車 | 139ps/6,500rpm | 10.6km/l |
ラフェスタハイウェイスターはトランスミッションが6ATと4ATでは搭載されるエンジンが異なります。
上段が6ATで下段が4ATです。
細やかなシフトチェンジが可能な6ATの方が燃費が良くなるのでおすすめです。
日産のミニバン全車種の価格帯比較
引用:http://autoc-one.jp/news/2805487/photo/0027.html
最後に日産のミニバン各車種の価格帯を比較してみたいと思います。
セレナ
ガソリン仕様:2,435,400円
ハイブリッド仕様:2,487,960円~3,728,160円
エルグランド
3,213,000円~8,067,600円
ラフェスタハイウェイスター
2,303,640円~2,700,000円
セレナもエルグランドも特別仕様車が豊富に用意されているため、価格帯が幅広くなってしまっています。
ハイウェイスター、ハイウェイスターGあたりが人気のグレードになりますが、この辺りだと前者が約268万円、後者が約301万円となります。
セレナは300万円の予算を考えておけば十分でしょう。
エルグランドは2.5Lと3.5Lがありますが、2.5Lの250ハイウェイスターS(7人乗り)が約340万円くらいから買えますので、セレナの上の方と一部重複します。
3.5Lの350ハイウェイスター(7人乗り)は約413万円です。ハイウェイスター系の最高級グレードの350ハイウェイスタープレミアムが約534万円なので、現実的にはこの辺りの価格帯を意識しておけば大丈夫でしょう。
エルグランドの予算は2.5Lなら400万円前後、3.5Lなら500万円前後と考えておいてください。
日産のミニバン全車種の比較まとめ
引用:http://jp.autoblog.com/2014/07/11/nissan-elgrand-smart-room-mirror/
以上、日産のミニバンを特徴、性能、燃費、価格帯の面から比較してご紹介しました。
トヨタは現状でミニバンが11車種ありますが、それに比べると日産は3車種、しかもそのうち1車種がOEMというのはちょっと寂しいところです。
おすすめの1台を挙げると、やはりセレナということになると思います。
扱いやすいサイズ感、ちょうどよいエンジン排気量&出力、お求めやすい価格帯など、死角が少ない非常に出来の良い車と言えます。
唯一の難点は燃費が悪いことです。一応ハイブリッドを謳っていますが、ガソリン仕様との燃費差がないためあまり売りにはなっていません。
しかしこの点は、今後登場が噂されている「セレナe-POWER」が投入されれば状況は一変するはずです。e-POWERはエンジンを使ってモーターを発電する(エンジンでは走らない)という画期的なシステムで、現在ノートに採用されて大人気となっています。
1日も早いセレナへの投入が待たれるところです。
エルグランドは次点、ということになりますが、2列目シートの乗り心地は正直なところアルファード/ヴェルファイアをも凌ぐので、セレナ以上におすすめというところはあります。
ただしエルグランドは価格帯がかなり上になるので万人におすすめ出来ない、という意味で次点です。
ラフェスタハイウェイスターも決して出来は悪くありません。近年はあのようなスタイリッシュ系ミニバンが少なくなってきましたが、走りやスタイル重視でミニバンを選ぶ人には見逃せない選択肢です。
不人気車種なので値引き幅も比較的大きく、40万円を超える値引きも決して夢ではありません。
ラフェスタハイウェイスターは生産終了も噂されているモデルなので、狙っている人は今が買い時です。